2019/04/05

Ambisonicsとは




VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、360度ビデオなど新しい体感型コンテンツの普及にともない、 音楽やサウンドにも同様の表現力が求められており、今まさに様々な試みが行われています。

サラウンドに高さの表現を追加しサウンドに包み込まれる立体的な音響を再現するイマーシブ・オーディオ、立体音響をヘッドフォンで聞くことのできるバイノーラルなど、様々な再生方法やそれらを実現するテクノロジーが開発され、私たちの身の回りでも採用が進んでいます。

その中でもYouTubeやFacebookに採用された「Ambisonics」(アンビソニックス)が現在大きな注目を集めています。

アンビソニックスを簡単に説明すると、次の3点に集約することができます。

  • アンビソニックスとは、イマーシブ3Dオーディオのフォーマットの一種
  • アンビソニックスでは、360°球体の音場で、録音と再生が可能
  • アンビソニックスは、シーンベースのフォーマット


アンビソニックスとは、イマーシブ3Dオーディオのフォーマットの一種


「イマーシブ」(Immersive)とは、日本語では「没入」とか「没入型の」と翻訳されます。つまりイマーシブ3Dオーディオでは、一般的なステレオやサラウンドでは得られない高い「没入感」に浸ることができます。

またアンビソニック以外の著名なイマーシブ3Dオーディオのフォーマットとして、ハリウッド映画で広く採用されている「Dolby Atmos」「DTS:X」、ヨーロッパで開発され音楽コンテンツのリリースが多い「Auro-3D」などがあります。

アンビソニックスでは、360°球体の音場で、録音と再生が可能




一般的なステレオ再生の場合、リスナーの前面から再生される平面的な音場ですが、5.1chや7.1chのサラウンドになると、リスナーを360°取り巻くようになります。さらに「Dolby Atomos」や「Auro-3D」といった3Dサラウンドの場合は、高さを加えたドーム型の半球面に音場が広がります。そしてAmbisonicsでは、360°全球面となり、リスナーをすべて包み込む球体が完成します。

アンビソニックスは、シーンベースのフォーマット


「シーンベース」(scene-based)とは何かを理解するためには、イマーシブ3Dオーディオ以外のフォーマットについて少し説明する必要があります。

イマーシブ3Dオーディオには、大きく分けて以下の3種類の方式があります。

  • チャンネルベース
  • オブジェクトベース
  • シーンベース(Ambisonics)


チャンネルベース



チャンネルベースとは、再生システム内のそれぞれのチャンネルに1:1で対応する再生方式です。

2台のスピーカーをつかって表現を行うステレオフォニックもチャンネルベースです。録音の段階から2台のスピーカーで再生することを想定し制作が行われています。
ステレオだけではなく、5.1chや7.1chといったサラウンドも基本的にはチャンネルベースで制作され、もちろんイマーシブサラウンドでもチャンネルベースの考え方を使うことができます。

主要なイマーシブ3Dオーディオのフォーマットである、NHKの22.2chマルチチャンネル音響や、ヨーロッパを中心に人気のあるAuro-3Dなどは、このチャンネルベース方式を使ったフォーマットとなります。

オブジェクトベース



オブジェクトベースとは、音源(音声信号)の他に音響メタデータを付随させリアルタイムに各スピーカーからの出力する音を計算して再生する方式です。

例えば頭上を通過するヘリコプターの音のような動きを伴う効果音に対して有効で、それぞれの音を「オブジェクト」として捉え、オブジェクトがどのように動き、その結果音量がどのように変化するかをスピーカーレイアウトにあわせてデコードを行い再生します。

Dolby Atmosでは、オブジェクトベースとチャンネルベースの両方を使ったフォーマットです。

シーンベース



シーンベースは、リスナーを取り巻く空間全体の物理情報を360°の全天球空間に記録再生する方式です。

シーンベースに属するAmbisonicsでは、マイクを使ってその空間の音場(アンビエンス)のすべてを360°の球体の中に取り込むこともできますし、個別に収録した音を自由に球体の中に配置し、オブジェクトベースのように自由に動かすこともできます。

またAmbisonicsの最大の特徴は、それぞれの音の動きや位置を球体の中に有したまま、その球体を自由に回転させることができます。この特徴によりVRコンテンツや360°動画などの音響として使われることが多い方式となっています。

Ambisonicsはスピーカーレイアウトに依存せず、チャンネルベースを含まないため、どのようなスピーカーレイアウトであっても1つのAmbisonicsフォーマットのファイルで対応することができます。



High Order Ambisonics


FacebookやYouTubeなどに採用されたことでAmbisonicsの音源を聴く環境が増えつつありますが、多くのAmbisonics音源はFirst Order Ambisonics、日本語では「1次アンビソニックス」と呼ばれるものです。

1次アンビソニックスでは全方位から聞こえる0次アンビソニックス(下図のW-channel)に水平方向、垂直方向、そして奥行きが加わります。


この状態でも上下・左右・前後という3次元の位置情報があるため、360度球体音場の再現は可能です。

ただしAmbisonicsの最大の特徴でもある音の動きや、球体音場の回転などを伴う場合ではそれぞれのチャンネル*の隙間が生じてしまい、音像の位置再現性が落ちてしまいます。
* ここでのチャンネルは、スピーカーの数ではなく空間を埋める方向とお考えください。

この問題を解決するのがHigh Order Ambisonics(通称:HOA)、日本語では「高次アンビソニックス」と呼ばれます。



IEM Plug-inを使用してAmbisonicsを制作するチュートリアルをご確認いただけます。


2019/02/01

レコードをDSD 11.2 MHzで高音質録音



「アナログ・レコードの音をキャプチャーして、デジタルプレイヤーで再現したい」という方は、多いのではないでしょうか。

DSDは一般的には録音後に編集ができないため、一般的な音楽制作のスタジオ録音にはなかなか採用されない規格ではありますが、手持ちのアナログ音源の「アナログらしい音」をデジタル化して再生するには、最適な規格ではないかと思います。

今回は、ADI-2 Proと付属の録音・再生ソフト「Sound It! for ADI-2 Pro』を使ってアナログ・レコードを高音質録音して、デジタルプレイヤーで楽しむ方法をまとめてみました。


必要なもの

  • DSD対応オーディオ・インターフェイス
  • 録音ソフト
  • コンピューター
  • レコードプレイヤー(およびプリアンプ)

前準備

ADI-2 Proのインストールガイドを参照してドライバをコンピューターにインストールしてください。

製品パッケージに記載される手順に従い「Sound It! for ADI-2 Pro」をインストールしてください。

製品に付属のセットアップガイドに従いADI-2 Proをお使いのコンピューターと接続してください。


機器の接続

まず典型的な接続例はこのようになるかと思います。


レコードプレイヤーからの出力はレベルが低いため、フォノイコライザーを搭載したプリアンプに接続して、レベルを上げる必要があります。最近のレコードプレイヤーの中にはフォノイコライザーを搭載したモデルもありますので、その場合はプリアンプを通さずにADI-2 Proに直接接続できます。

プリアンプからADI-2 Proへの接続は、アナログでもデジタル接続でも問題ありません。プリアンプのADコンバーターを使いたいか、ADI-2 ProのADコンバーターを使いたいかでお好きな方をお選びください。わからない場合はアナログ接続でADI-2 ProのADコンバーターで録音することをお勧めします。

スピーカーへの接続は、パッシブスピーカーの場合は上の図のようにアンプを経由する必要があります。パワードスピーカーをお使いの場合はADI-2 Proから直接接続することができます。

各所の接続端子の形(RCA、TS/TRS、XLR)が合わない場合は、市販のアダプターまたは、端子の合った正しい変換ケーブルをお使いください。


録音のセットアップ

機器の接続が終わったらソフトウェアを立ち上げて録音の準備を始めます。

  1. 必要のないソフトウェアが立ち上がっていないことを確認します。
  2. Sound It! for ADI-2 Proを立ち上げます。
  3. 起動時にオーディオポートの設定が表示されますので、出力デバイス入力デバイス共にADI-2 Proを選択します。Core Audio設定の画面が表示されたらOKボタンを押します。
※Windowsの場合はASIO Madiface USBを選択してからASIO設定OKボタンを押します。

  1. ファイルメニューもしくは下の図のアイコンからファイルを新規作成します。

  2. オーディオファイルの新規作成画面が表示されますので、左下のフォーマット変更ボタンを押します。
  3. 表示される画面でDSDにチェックをいれて、サンプリングレートを11.28MHz(DSD256)を選択し、OKボタンを押します。
  4. 表示されるオーディオファイルの新規作成画面のOKボタンを押すと録音画面が表示されます。

  5. レコードをクリーナーなどで丁寧に掃除してください。
  6. ADI-2 ProのフロントパネルにあるI/Oボタンを押して、Analog Inputページ内の最下部にあるAD ConversionDSDに設定されていることをご確認ください。



  7. 家庭用のプリアンプはRMEのリファレンスレベルを+4dBu(1.78dBvまたは1.23 V RMSに相当)に設定します。
  8. DSDは録音後にレベルの変更を含む調整ができないため、ベストなレベル(ボリューム)で録音するためには、Sound It!上のレベルメーターを見ながら曲中のレベルの一番大きな箇所がピークしない(0dBを超えない)程度、プリアンプのボリュームで音量を上げます。

  9. レベルが決定したらSound It!の録音ボタンを押して、同時にレコードを再生します。
    後でトリミング(最初、最後の空白部分をカット)することはできませんので、タイミングよく再生、録音を開始してください。
  10. 録音が終わったら、ファイルメニューから名前をつけて保存を選んで保存します。
  11. 以上でDSD録音が完成しました。

前途で書いた通り、DSDの特徴は編集ができないということです。つまりアナログレコードをカッティングするのと同じことで録音時の再生音が最終のファイルとなります。よってボリュームの設定やレコードのクリーニングが綺麗な録音をするための重要なポイントです。


録音した音源を再生する

ADI-2 Pro / ADI-2 DACでDSD音源を再生すると、レベル・メーターが緑色から青色に変わるため、すぐに確認できます。


PCM再生時のレベルメーター

DSD再生時のレベルメーター

録音したDSD音源を再生するには、様々な方法があります。
Sound It! for ADI-2 Proでそのまま再生することもできますし、JRiver Media Center、Audirvana +、Foobar2000(拡張プラグインが必要)等のDSD対応メディア・プレイヤーで再生することもできます。

また、DSDやハイ・サンプルレートの音源を管理するにはどうしても大容量のハードディスクが必要になりますが、その場合、IODATA SoundgenicやDELA等の大容量のNASネットワーク・オーディオ・サーバーで音源を管理し、サーバーのUSB端子にRMEのインターフェイスを直接接続してパソコンなしでiPadから操作することもできます。この方法については、下にリンクした別の記事で詳しくご紹介していますので、是非ご覧ください。

それでは、皆様お楽しみください!



「Soundgenicで音楽をさらに楽しもう!」
https://audio.synthax.jp/content/rme-with-soundgenic/